カミュのペスト、ランベールはなぜ脱出を思いとどまったのか
Eテレでカミュのペストをやっていたのでフランス語で再読した。
3回読むと、もうストーリーがわかってるので、トリビア的なところばかり目につきます。それはそれで楽しかったです。
今回は、登場人物の中で、ペストほどのピンチが襲った時
自分は誰の立場をとるだろうか、と想像してみた。
以下、ネタバレ含みます。
LA Peste (Folio Series: No. 42)
- 作者: Albert Camus
- 出版社/メーカー: Gallimard
- 発売日: 1985/06/01
- メディア: マスマーケット
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医者という立場からペストと戦うリウーは、実際に患者を見ているので最前線にいます。最前線で戦ってるのは必ずしも専門職だけではなく、タルーのように人を集めて戦いに加わる人もいます。信念のため、自分が信じるもののために全てを差し出す人ですね。また、大勢の中に埋もれながらも善意から自分にできることをするグランのような人も、脚光を浴びないけれど立派な最前線の一員です。
ランベールは恋人と離れ離れになり、オランへは取材に来ただけの立場なので(それを言ったらタルーも旅行者ですが)傍観者のような振る舞いで、なんとか脱出しようと模索します。それなのに、やっとそれが叶うという時になって残ることを決意するのです。そしてタルーのチームに加わることに。
有事の際どう動くのか、私は事前に予測することは難しいと思うのです。自分は絶対こうするつもりだ、といったって何か大きなものの前ではあっさりと覆されてしまうかもしれないからです。よく身近な人に裏切られたという話を聞きますが、一番驚いているのは本人かもしれません。
私が個人的に共感を覚えたのはランベールです。
自分は、リウーのように能力も人格も備わった中心人物ではないし、
タルーのように強い信念を持って、人を組織してピンチに当たるヒーロー型でもありません。かと言って、グランのように善意で手伝えるかどうか…普段はできたとしても、ピンチの時にできるかわかりません。
基本的に個人主義で自分の幸せを追い求め、そのために日々頑張るランベールのような人がパーセンテージでいうと一番多いタイプではないでしょうか。
私には彼がなぜ寸前になって残ったのか、ほんの少しわかるような気がします。
恋人と幸せになるために脱出しようとしたランベールは
その時になって、一瞬にして気づいたのではないでしょうか。
脱出しても、決して幸せを感じることはないだろう、ということに。
ここから1人で逃げた事実を一生背負っていかなければならない。
そのことを自分は誇りに思えない。そんな状態で恋人といても幸せになることはない、と。このことは本文でも言っています。それよりも残って共に戦うことを選んだのでは、と想像します。
動機において利己的と言われればそうかもしれません。
あくまでも自己認識に基づいた行動なので、誰にとってもそれが正しいというわけではありません。全てを捨てても恋人と再会することが命な人は脱出に迷いがないでしょうし、それがその人の真実なのです。そういう人がランベールの真似をしてもやっぱり幸せにはなれないのではないでしょうか。
そして、その瞬間まで自分がどっちの人間なのか本人にも隠されている、ということは驚くべきことではないですか。