私に勇気をくれた2冊
この2冊に特に繋がりがあるわけではないのです。一方は児童文学の名作で、もう片方は戦争の手記。これらの本を読んだ当時、私は家族の介護をしていて、日々怒ったり悲しんだり落ち込んだりと思春期さながらの感情の起伏を経験していました。そんな先の見えない生活において勇気をもらった本、というのが強いて言えば共通点です。
ケストナーの本は子供の頃に何冊か読んだけれど、有名なこの作品は読んだことがなく題名だけ知っていました。「飛ぶ教室」から想像するに、子供達を乗せて教室ごと空を飛ぶファンタジーもの、というのが私が勝手に抱いていたイメージです。完全な勘違いなんですけど。
この本はひとことで言うと、少年たちが「でっかいグラブをつけてぶん殴ってくる人生」てやつに倒されないよう生きる術を学ぶ本、です。
舞台はドイツのジムナジウムで、寄宿舎生活をする5人の少年たちはそれぞれ特徴があって個性豊か。自然とリーダー的存在となる者、変わり者、事情がある家庭の子、弱虫のウリー、いつも彼を守ってくれるマッツという友達。 出てくる大人たちがまたとってもいいんです。この本は子供達に勇気をくれる本だな、と感じました。
児童書には子供向けの形をとりながら、そのメッセージは大人が読んだ方が響くという作品があります。「星の王子さま」や「モモ」がいい例です。この「飛ぶ教室」も間違いなくその仲間です。
私が読んだのはこちらです。
こちらは岩波少年文庫版
- 作者: エーリヒケストナー,ヴァルター・トリアー,Erich K¨astner,池田香代子
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2006/10/17
- メディア: 単行本
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戦争の話というのは兵士である男性側から語られるものが多い。これはめずらしく女性が書いたもので、内容は「満州に取り残された日本人の脱出劇」だ。著者はその渦中にいた、作家・新田次郎氏の妻、藤原ていである。
昭和20年8月9日夜遅く、激しくドアを叩く音で始まる。現代に生きる私たちはその日に何が起ったかもその後の展開も知っている。それをまだ知らない人たちがどうやって逃げたのかがここには書かれている。きっと目撃したであろう凄惨な場面にはあまり触れず、あくまでも子供を抱えて必死で逃げる母親の立場から語っている。
そんな彼女も最初は泣いているだけ。夫と離ればなれになるシーンで思わず口をついて出た言葉がそれを物語っている。「ね、生きていてね。どんなことをしても生きていてね」。日本は戦争に負けた。ソ連軍がやってくる。自力で逃げなくてはならない。自分は産後1ヶ月の体で乳児を含む3人の子連れ。もう想像を絶するシチュエーションではないですか。不安で押しつぶされそうになりながら、子供たちを守るのだという使命感が著者を奮い立たせる。
自分だったらなどど安易な想像はできない。そうなってみなければどう行動するかわからないレベルの非常事態だから。北緯38度線を目指す道程で繰り広げられる日本人同士のいざこざやらが、あぁもうなんだか現代日本にも通じるものがありムカムカします。読んだ後しばらくは、自分の直面する困難が米粒に見えました。